衛生士がすぐ辞める訪問歯科医院の共通点とは?

衛生士がすぐ辞める訪問歯科医院の共通点とは?

1. なぜ衛生士が定着しないのか?―現場のリアルな声から

なぜ訪問診療の衛生士は辞めてしまうのか?

訪問歯科診療において、歯科衛生士は欠かせない存在です。しかし、多くの歯科医院では、「採用してもすぐに辞めてしまう」という悩みが繰り返されています。これは決して珍しい話ではなく、現場のあちこちで耳にする課題です。

その理由として、まず挙げられるのは「想像以上に孤独だった」という感想です。外来診療では、院内に他のスタッフがいて、何かあればすぐ相談できる環境があります。しかし訪問診療では、衛生士が現場で1人きりになる場面も多く、患者さんだけでなく、介護職員やケアマネジャーといった他職種や、ご家族などとのやり取りが求められます。その緊張感やプレッシャーに圧倒されてしまう方も少なくありません。

また、「どこまで自分が判断してよいのか分からない」という声もよく聞かれます。院内では、業務の線引きがある程度明確になっていても、訪問先では状況判断を求められる場面が増えます。その際に、方針が共有されていなかったり、院長との意思疎通が不十分だったりすると、衛生士は現場で迷い、不安を抱えるようになります。

このように、衛生士が離職してしまう背景には、単なる「やる気」や「根気」の問題ではなく、訪問診療という特殊な環境に対する準備不足や、支援体制の不在があるのです。個人の資質のせいにしてしまえば、同じことが何度も繰り返されてしまいます。

訪問歯科を継続的に展開していくためには、「辞めない仕組み」をつくる視点が欠かせません。その第一歩として、次章では衛生士の離職を招く「仕組みのなさ」について考えていきます。

2. 離職を招く「仕組みのなさ」―院内体制の不備が引き起こす混乱

「仕組みの不在」が離職を招く

訪問歯科診療を安定して継続していくためには、単にスタッフを確保するだけでなく、「現場を支える仕組み」が欠かせません。ところが、多くの医院ではこの「仕組み」が整わないまま、なんとなく始めてしまうケースが見受けられます。そして、こうした“準備不足”が、歯科衛生士の離職を引き起こす大きな原因となっているのです。

たとえば、訪問先に持参する器材の管理が属人化している医院では、衛生士が「自分で全部揃えて当然」という空気の中で業務を担うことになります。さらに、訪問経路の把握や施設との事前連絡も衛生士任せ。こうした環境では、現場に出る前から疲弊してしまいます。

また、口腔ケアの進め方や記録の取り方など、診療の中身に関するルールが曖昧なまま放置されている医院も少なくありません。「誰が何をどこまでやるのか」が明確でない状態では、衛生士は常に手探りで動くことになり、不安と責任だけが積み重なっていきます。

院長自身が訪問診療を“その場対応”の延長線上にとらえていると、衛生士にとっては極めてストレスフルな現場となってしまいます。外来と違い、訪問診療は生活の場に入り込む行為であり、その分、準備・連携・判断の要素が複雑です。にもかかわらず、「外来と同じようにやればいい」と丸投げされれば、衛生士は「このまま続けていくのは無理だ」と感じるのも当然でしょう。

つまり、歯科衛生士が辞めてしまう背景には、業務の属人化や情報共有の不足といった“構造的な問題”が横たわっているのです。

しかし裏を返せば、それらを整えるだけで衛生士が働きやすい職場に近づけるとも言えます。次章では、「院長の姿勢と責任」がこの仕組みづくりにどう影響するのかを掘り下げていきます。

3. 院長の「丸投げ」がチームを壊す

院長の関与が現場の安心を左右する

訪問歯科診療において、歯科衛生士が安心して働けるかどうかは、院長の関与度合いに大きく左右されます。ところが実際には、「現場のことは現場でなんとかしてほしい」と、業務の多くを衛生士に任せきりにしている医院も少なくありません。

たしかに、現場で起こる細かな判断や対応を、すべて院長が指示するのは現実的ではありません。しかし、「任せる」と「丸投げする」とでは大きな違いがあります。

たとえば、訪問先での急なトラブルに対して、院長が「それぐらい現場でうまくやって」と言ってしまうと、衛生士は「自分だけで責任を負わされている」と感じます。その結果、「この仕事には誰も責任を取ってくれない」という不信感が芽生えてしまうのです。

また、報告・相談をしても反応が曖昧だったり、「それ、あとで見ておくよ」と言って放置されてしまったりすると、現場での判断軸が育たず、衛生士は常に不安を抱えたまま働くことになります。いわば、コンパスのない航海に出ているようなものです。

本来、院長は「任せるなら任せきる」か「責任を持って支援する」か、どちらかを選ぶべき立場です。指示がなければ不安になり、干渉が多すぎれば自律性が育ちません。大切なのは、業務を共有し、振り返る仕組みを整えたうえで、「迷ったときに立ち戻れる基準」をチーム全体に提示することです。

衛生士がすぐ辞めてしまう医院では、この“判断の拠り所”が欠けています。信頼しているように見えて、実は無関心。任せているように見えて、実は放置。そんな状態では、どれほど熱意ある衛生士でも、長くは続けられません。

院長が訪問診療を「医院としての責任ある診療」として捉え直し、現場との連携を意図的に強化することで、チーム全体の安定感は大きく変わってきます。

次章では、衛生士の離職を防ぐもう一つの要因――「成長実感」について考えていきます。

4. 教育・フィードバックの欠如 ― 成長実感がない職場に未来はない

経験よりも“育て方”が問われている

訪問診療の現場は、外来とは異なる知識と経験を求められる場です。だからこそ、現場に出る歯科衛生士にとっては、「自分はきちんとできているのだろうか」という不安が常につきまといます。そして、その不安に答えるものが何もないとき、人はやがて離れていきます。

採用時に「訪問経験はありますか?」と尋ねる歯科医院は少なくありません。しかし、経験があるかどうか以上に大切なのは、入職後に「どう育てるか」という視点です。ところが、現場の教育体制が不十分なまま運用されている例も多く見受けられます。

たとえば、同行指導が形式的で、ただ一度訪問に連れていくだけ。あとは「現場で慣れてね」というスタンスでは、本人が学ぶべきことも、自信を深める機会も得られません。また、業務が終わったあとに振り返りの時間を設ける医院もまだまだ少数派です。

本来、フィードバックとは「改善点を伝える場」であると同時に、「できていることを認識させる場」でもあります。訪問診療に慣れていない衛生士が、不安を抱えながらも必死にやり遂げたことに対して、「ここまでできているのは素晴らしいですね」と声をかけるだけで、その人の自信と定着意欲は大きく変わります。

加えて、衛生士が自分の仕事の意味や成果を理解できるようにするためには、院長や先輩スタッフからの定期的なフィードバックが欠かせません。「なぜこのケアが必要なのか」「この対応がどう役立ったのか」といった説明があることで、自身の行動が患者の生活や健康にどう結びついているのかが実感できるようになります。

人は、自分の成長が感じられる場に身を置きたいと思うものです。逆に、「成長できる気がしない」「誰も見てくれていない」と感じる場所からは、どれだけ待遇が良くても離れていきます。

教育とは、現場任せではなく、医院全体で取り組むべき“仕組み”です。衛生士が「この医院でなら力を伸ばせそうだ」と思える環境を整えること。それが、訪問診療の現場に人が根づくための第一歩となります。

次章では、衛生士の働きがいに直結するもう一つの要素――「感謝されない」「成果が見えない」ことの影響について掘り下げていきます。

5. 「感謝されない」「成果が見えない」働き方が離職につながる

「誰の役に立っているのか分からない」

訪問診療の現場では、歯科衛生士の働きが医療の質や患者のQOL(生活の質)に大きく影響します。しかしその一方で、衛生士自身が「自分の仕事の価値」を実感できないまま、モチベーションを失っていくケースも少なくありません。

現場でよく聞かれるのが、「誰に感謝されているのか分からない」「やりっぱなしで終わってしまう」という声です。たとえば、外来であれば患者から直接「ありがとう」と言われる場面がありますし、次回の来院で前回の処置の成果を自分の目で確認することもできます。

ところが訪問診療では、患者との関係が断片的だったり、意思疎通が困難だったりするケースも多く、「自分のやったことが相手にどう役立ったのか」が見えにくくなりがちです。また、診療後に共有される振り返りや報告の機会がないと、評価の言葉を受ける場面も少なくなります。

さらに、ケアの成果を文書や報告書の形で「見える化」していない医院では、衛生士の仕事が患者や家族、ケアマネジャーに正しく伝わらず、ただの“お掃除係”としてしか見られていないと感じることもあります。これでは、専門職としての自負やモチベーションを保つのが難しくなってしまいます。

実際、介護事業の現場では「改善の見える支援」が重視されるようになってきており、歯科の関わりも同様に“成果”が求められる時代になっています。だからこそ、「口腔衛生状態がどう変わったか」「嚥下状態や食形態がどのように改善されたか」といった変化を記録し、言語化して届ける仕組みが求められます。

歯科衛生士の関与が、患者の日常生活にどのようなプラスをもたらしているか。その手応えを衛生士自身が感じられ、さらに周囲からも認められる環境があってこそ、人は現場に留まり続けようと思えるのです。

次章では、こうした課題を乗り越え、歯科衛生士が定着している医院が共通して持っている“仕組み”について考えていきます。

6. 定着率の高い医院に共通する“仕組み”とは?

定着する医院に必ずある“仕組み”

歯科衛生士が辞めていく医院には、ある共通の「不在」があります。それは、“仕組み”です。逆に言えば、衛生士が安心して長く働き続けている医院には、必ずといってよいほど、彼女たちを支える明確な仕組みが整っています。

たとえば、定着率の高い医院では、訪問診療に関する業務の流れが「見える化」されています。出発前の準備、訪問先での対応、診療後の記録や振り返りに至るまで、誰が・何を・どうするのかが明確に分担されているのです。こうした明文化された業務フローがあることで、新しく入ったスタッフも迷わず動けますし、既存のスタッフも過度な負担を感じずに済みます。

また、役割の分担だけでなく、「報告・相談・共有」の仕組みが習慣化していることも重要です。衛生士が困ったときに相談できる窓口があるかどうか、あるいは現場で感じた小さな違和感や気づきを、スタッフ同士で自然に共有できる雰囲気があるかどうか。この差が、日々の安心感に大きく影響します。

さらに、患者ごとの対応マニュアルや口腔ケア記録、衛生士ごとのケースレビューの仕組みがある医院では、「自分の仕事が見える」「評価されている」と実感しやすくなります。これは、単なる業務管理ではなく、専門職としての成長と手応えを支える大切な要素です。

もうひとつ特筆すべきは、そうした仕組みが“最初から完璧だったわけではない”という点です。多くの医院では、小さく始めて、現場での試行錯誤を重ねながら少しずつ整備してきたのです。その過程で衛生士自身の意見や視点を取り入れていくことが、結果として定着につながっているのです。

結局のところ、「定着する医院」と「辞められてしまう医院」の違いは、“人を育て、支えようとする意志”を医院として持っているかどうかに尽きます。そしてそれは、属人的な努力ではなく、医院全体の設計によって支えられていくべきものなのです。

次章では、こうした視点をまとめながら、「衛生士が辞めない医院」に共通する意識と実践を整理していきます。

7. まとめ ―“辞めない職場”は意図的に設計できる

衛生士が辞めない職場は“つくられている”

歯科衛生士が訪問診療の現場から離れてしまう理由は、本人の意欲や能力の問題だけではありません。むしろ、医院側の体制や支援のあり方が、その働きやすさと定着に大きく関わっています。

「衛生士は辞めやすい職種だから」「人手不足は仕方ない」——そうした言葉で現場の問題を片づけてしまうのは簡単ですが、それでは何も変わりません。現に、歯科衛生士が長く活躍している訪問歯科医院は存在し、そこには共通した“工夫”と“仕組み”が存在しています。

まず、そうした医院では、業務が属人化しておらず、流れが見える形で整理されています。誰が、いつ、何を行うかが明確で、衛生士が一人で現場を背負い込むような構造にはなっていません。

また、院長が現場を「任せっぱなし」にするのではなく、「必要なときに支える」姿勢を持ち、衛生士が安心して報告・相談できる環境が整えられています。これは、専門職としての自立を促すだけでなく、心理的な安全性の確保にもつながります。

さらに、日々の業務に対するフィードバックや感謝の言葉、ケアの成果を「見える化」する取り組みがあることで、衛生士は「この仕事に意味がある」と感じられるようになります。それが、働く意義や誇りへとつながり、自然と定着率の向上にも結びつくのです。

つまり、辞めない職場は、偶然の産物ではありません。明確な意志をもって、丁寧に設計された“環境”の結果なのです。

訪問歯科診療という医療のかたちが、今後ますます求められる時代において、歯科衛生士の力は欠かせません。だからこそ、彼女たちが「ここで働き続けたい」と思える職場づくりに、本気で取り組む必要があります。

衛生士が根づく職場には、患者も、家族も、ケアマネも、そして地域社会も、安心して頼ることができます。それは、医院にとっての最大の信頼資産になるのです。

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「なぜ、優秀な歯科衛生士ほど早く辞めてしまうのか?」
その答えは、意外にも給与や福利厚生ではなく、現場の仕組みや院長の姿勢にありました。

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