
ゼロから始める訪問歯科経営 成功する立ち上げ5ステップ
目次
1.なぜ今、訪問歯科なのか?
外来診療だけでは乗り切れない時代背景とニーズの変化
日本の歯科医院を取り巻く経営環境は、かつてないほどの変化に直面しています。外来患者の減少、高齢者の急増、そして医療提供体制の地域移行。こうした背景のなかで、訪問歯科診療への関心が高まりつつあります。
この章では、訪問歯科診療が今なぜ必要とされるのか、その社会的・制度的背景を読み解いていきます。
人口減少と高齢化が生む外来診療の限界
近年、日本の人口は本格的な減少局面に入りました。特に郊外住宅地や地方都市では、かつて多くの若い世帯が住んでいた地域が、今では高齢者だけが残された「空洞地域」と化しています。
歯科医院にとってこれは無視できない問題です。若年層の患者が減ることで、定期検診や自費診療の機会は縮小し、来院できる高齢者も年々減少しています。さらに認知症の進行により、来院時の対応はより複雑化し、診療にかかる時間も長くなります。
こうした状況を放置しておくと、医院の外来収入は緩やかに、しかし確実に下がっていきます。
通院困難な患者が地域に溢れている
高齢者が増えるということは、「通院が難しいが、歯科診療のニーズは高い」という人々が増えていくということです。要介護状態や慢性疾患、さらには転倒リスクなどを理由に、通院を控える高齢者は少なくありません。
一方で、8020運動の成果により、高齢者の多くが多数の天然歯を保持しています。これは誇るべきことですが、同時に口腔トラブルの頻度や複雑性が増していることも意味します。放置すれば、誤嚥性肺炎や栄養障害といったリスクを高める要因にもなりかねません。
つまり、歯科診療が「動いて届く」体制でなければ、高齢者の口腔健康は守れない時代が来ているのです。
外来・自費に次ぐ「第3の柱」としての訪問歯科
これまで多くの歯科医院は、保険診療と自費治療という二本柱で経営を成り立たせてきました。しかし、人口構造の変化と患者ニーズの多様化は、この二本柱だけでは将来の医院経営を支えきれないことを示唆しています。
訪問歯科診療は、いまや「補助的なもの」ではなく、「地域に求められる歯科医院の姿」の一部となりつつあります。医科の在宅医療が当たり前になっているように、歯科もまた、地域生活を支える基盤医療の一端を担うことが求められているのです。
高齢者とその家族、介護職、ケアマネジャー、さらには地域包括支援センター。こうした人々との連携を通じて歯科医療の新たな役割が見えてくるでしょう。
訪問歯科診療は、時代の「受け身の対応」ではなく、未来への「前向きな選択」です。
2.「往診」から「仕組みある訪問診療」へ
単発型ではなく、継続的支援型への転換
訪問歯科診療と聞いて、多くの先生がまず思い浮かべるのは「急な依頼に応じて診に行く」スタイル、いわゆる往診型の診療です。もちろん、患者の緊急性に対応するこの形式も大切な医療行為ではありますが、それだけに留まっていては、訪問診療の本質と可能性を十分に活かすことはできません。
本章では、訪問歯科を「成り行き」から「戦略」へと転換するための視座として、フロー型とストック型という2つの診療モデルの違いと意義を掘り下げていきます。
フロー型:単発依頼に対応するスタイル
フロー型の訪問診療は、突発的な依頼があった時だけ現場に出向くスタイルです。依頼の多くは「入れ歯が壊れた」「痛みが出た」といった急性の問題への対応であり、応急処置で終わることも少なくありません。
この形式の最大の特徴は、“先が読めない”ということです。患者の依頼がなければ次の診療は生まれず、仮に依頼が続いたとしても収入の予測性が立ちにくいため、安定的な運営にはつながりません。
医院側にとっても、外来の合間にこなす「隙間対応」の域を出ず、継続的な診療スケジュールや体制の整備には結びつきにくいのが現状です。
ストック型:継続支援を前提とした診療モデル
これに対して、ストック型の訪問歯科は、継続的なケアを前提に計画的に診療を行うスタイルです。定期的な訪問日程をあらかじめ設定し、予防・管理・処置を段階的に組み立てるため、患者本人や家族、ケアマネジャーなどの関係者との信頼関係も深まっていきます。
このモデルでは、1人の患者を長期にわたって診ていくことになります。その結果、患者の状態変化にも柔軟に対応できるようになり、必要に応じて栄養指導や摂食嚥下のアセスメントなど、より広範な支援を提供できるようになります。
また、定期的な訪問により収入の見通しも立てやすくなり、スタッフの配置や機材投資など経営判断も安定的に行えるようになります。ストック型こそが、訪問歯科診療を“医院の柱”として位置づける鍵となるのです。
ストック型への転換がもたらす3つの効果
1つ目は、「将来の見通しが立てやすくなる」ことです。訪問予定があらかじめ組まれていれば、1か月先、半年先の診療実績が予測でき、採用・育成・設備投資といった医院運営の意思決定がしやすくなります。
2つ目は、「地域との関係性が深まる」ことです。継続訪問のなかで介護職員や医科主治医との連携が自然と生まれ、地域包括ケアの中で信頼される“地域の歯科医院”としての役割が定着していきます。
3つ目は、「患者と向き合う診療の質が高まる」ことです。患者の人生に寄り添いながら、機能の維持や生活の質の向上に寄与する姿勢は、歯科医療の本来の使命そのものです。
3.仕組みづくりの全体像:5ステップで整える訪問診療体制
継続的な訪問歯科診療を支える骨組み
訪問歯科診療を“持続可能な医院の柱”に育てていくには、気まぐれな対応やその場しのぎの工夫では不十分です。重要なのは、再現性と安定性をもった仕組みを整えること。つまり、誰がやっても一定の成果が出る業務設計を行う必要があります。
本章では、そのための基本構造である「5つのステップ」について、全体像と意義を明らかにしていきます。これらのステップは、一見バラバラな業務のように見えて、すべてが有機的に関係しています。一つひとつを丁寧に積み上げることで、医院に訪問診療の“骨組み”が生まれてくるのです。
ステップ1:現状分析
仕組みづくりの起点は、「今の自院の状況を正しく把握すること」です。
たとえば、週に何時間訪問できるのか? スタッフの稼働状況はどうか? 近隣にどの程度の要介護者がいるのか? こうした現実的な要素を数値化していくことで、はじめて「実現可能な目標」が見えてきます。
現状分析を怠ると、机上の空論に終わるリスクが高まります。「何となく始めてみたが、忙しくなって中断した」「必要な機材がなくて継続できなかった」といった事態は、すべて準備不足が原因です。
ステップ2:医院内体制の構築
次に行うのは、医院内のリソースを整えることです。
具体的には、院長不在時でも安心して外来を任せられるスタッフの配置、訪問に同行する歯科衛生士の協力体制、スケジュール管理のルール化などです。特に、衛生士との連携が構築できるかどうかが、初期フェーズの成否を大きく左右します。
また、訪問診療にあてる時間帯のパターンも重要です。たとえば、外来の空き時間を横断的に使う「ヨコ帯型」か、週に1日を丸ごと訪問日にする「タテ帯型」か。自院のスタイルに合わせて無理のない設計が求められます。
ステップ3:集患
体制が整ったら、次は“患者さんとの接点”を設計します。
院内ポスター、リコールハガキ、フォロー電話など、すぐに始められるものもあれば、ケアマネジャーや介護施設との連携構築といった“中長期型”の施策もあります。いずれにしても、仕組みとして続けられること、誰がやっても再現できることがポイントです。
特に重要なのは、「仲のよいケアマネを3名つくる」という発想です。信頼関係を築いたケアマネからの紹介は、質・量ともに安定した患者獲得につながるからです。
ステップ4:診療
訪問現場では、診療そのものも医院の信頼を左右する大事な要素です。
高齢者特有の疾患、意思疎通が難しいケース、家族や施設スタッフとの説明対応など、外来以上に臨機応変な力が求められます。「どこまで治療すべきか?」という判断も、患者の全身状態や介護環境をふまえて決めていく必要があります。
単なる“延長線の歯科診療”ではなく、“生活支援型の医療”という視点が必要です。
ステップ5:医療事務
最後のステップは、制度を味方につける事務処理体制の整備です。
訪問診療には、医療保険と介護保険が密接に絡みます。請求ルール、必要書類、患者負担の説明など、事務的な知識と手順を整えることで、安定した報酬とトラブル回避が実現できます。
特に「算定漏れ」による損失や、ケアマネ・ご家族との認識違いを防ぐためには、正確でわかりやすい事務運用が欠かせません。
これら5つのステップは、単なる業務フローではなく、医院の「方針」と「文化」を形づくる骨格そのものです。次章からは、それぞれのステップを具体的に深掘りし、実践へとつなげていきましょう。
4. 「訪問診療の現実」と向き合うために
初心者がつまずきやすい壁とその乗り越え方
訪問歯科診療を始めるにあたって、多くの歯科医院が直面するのが「理想」と「現実」のギャップです。
「患者が来ない」「どこまで治療していいのかわからない」「施設には行けても在宅は難しい」など、始めてみて初めて気づく課題が次々に現れます。
しかし、これらは決して特殊なトラブルではありません。すでに多くの医院が経験し、乗り越えてきた“成長の通過点”なのです。ここでは、訪問歯科診療を始めたばかりの医院が特につまずきやすい現実的な課題と、それにどう向き合えばよいのかを考えていきます。
「何から始めればよいか」がわからない
最も多い声の一つが、「まず何をすればいいのか分からない」という戸惑いです。外来と違い、訪問診療には患者との接点のつくり方、現場の進行、書類の取り扱いまで独特のルールが存在します。
この混乱を避ける最初の一歩は、「全体像を先に知ること」です。第3章で述べた5ステップの構造を意識し、「今の自分たちはどこにいるのか」「次にやるべきことは何か」を地図のように見渡せる状態を作ることが重要です。
闇雲に始めるのではなく、あらかじめ“段階的に整えていく前提”をもつことで、焦りや混乱は確実に減らすことができます。
「この患者にどこまで治療すればいいのか」がわからない
訪問現場では、患者の全身状態や生活環境に応じた判断が常に求められます。
「義歯を入れるべきか、清掃だけにとどめるべきか」
「摂食訓練を進めるべきか、栄養補助食品の活用にとどめるべきか」
こうした迷いに対して、完璧な正解があるとは限りません。重要なのは、「患者のQOLにどう貢献するか」という視点を持つことです。
歯を治すこと自体が目的なのではなく、「食べられるようにする」「誤嚥を減らす」「家族の介助負担を軽くする」など、生活に直結した意味づけを持たせることが求められます。
判断が難しいときは、医科主治医やケアマネジャー、看護師といった他職種と連携することが大切です。自分ひとりで背負わず、「情報を共有し合いながら進める」という姿勢が、結果として診療の質も高めてくれます。
「患者はどこから来るのか」がわからない
「訪問診療を始めたのに、誰からも依頼が来ない」という悩みも多く聞かれます。しかし、これは患者が“いない”のではなく、「知られていない」ことが主な原因です。
多くの高齢者や家族、施設関係者は、「歯科の先生が来てくれる」とは思っていません。だからこそ、継続的に情報を届ける仕組みが必要です。院内掲示物、患者へのお知らせ、地域包括支援センターへの訪問、ケアマネへの案内文書など、地道であっても“接点を増やす”努力が必要になります。
この章の結びに強調したいのは、「訪問歯科は“診療技術”だけではなく、“伝える力”と“続ける工夫”によって育っていく」ということです。
5.地域とつながる、信頼の診療ネットワーク
ケアマネ・施設・医科との関係性が未来をひらく
訪問歯科診療の成否を左右するのは、診療技術や設備の充実度だけではありません。
どれだけ“地域とつながっているか”――それこそが、患者紹介の安定、診療継続の円滑化、そして地域における信頼の獲得へとつながる鍵となります。
訪問診療は、ひとつの医院の努力だけで完結するものではありません。患者の生活を取り巻くケアマネジャー、介護職、看護師、医師、家族――それらすべてと「連携」することで初めて、本来の力を発揮します。
この章では、訪問歯科を地域に根づかせるために欠かせない“外部とのつながり”をどう築くか、その考え方と実践例をご紹介します。
「伝わっていない」は「ない」のと同じ
まず大前提として認識したいのは、「どれだけ優れた訪問診療を行っていても、地域に知られていなければ、存在していないのと同じ」という事実です。
たとえば、施設職員やケアマネジャーが「訪問歯科は費用が高い」「応急処置しかしてもらえない」「説明がわかりにくい」といった誤解を持っていた場合、当然ながら紹介は生まれません。これは、歯科医院側が“伝える努力”を怠った結果とも言えるでしょう。
したがって、まず必要なのは、“存在を伝える”こと、そして“信頼を築く”ことです。
勉強会開催は「つながりづくり」の最短ルート
その具体策のひとつが、地域のケアマネジャーや施設職員を対象とした勉強会の開催です。
「訪問歯科って、何をしてくれるの?」
「どういう患者が対象になるの?」
「診療内容や費用はどんな感じ?」
こうした疑問に対して、丁寧に、わかりやすく、現場の視点に寄り添って説明することで、信頼関係は確実に深まります。
もちろん、一度の勉強会で一気に結果が出るわけではありません。しかし、定期的に開催し、回を重ねるごとに、参加者との距離は確実に縮まっていきます。やがて「◯◯先生のところなら安心して紹介できる」という評価へとつながるのです。
ケアマネとの関係づくりは「質」と「数」
勉強会のほかにも、日常的な情報提供やリマインドの工夫が重要です。たとえば:
- 診療開始時にケアマネ宛の連絡票を送る
- 定期フォローの報告書をまとめて送付する
- 新年度の診療体制や担当者変更を文書で知らせる
こうした小さな積み重ねが「丁寧な医院」という印象を生み、紹介のきっかけになります。
さらに、意識しておきたいのが「仲のよいケアマネを3名つくる」という考え方です。地域に3人、継続的に紹介してくれる関係性が築ければ、それだけで月数件の新規患者が安定的に生まれる仕組みになります。
医科や多職種連携は「一体感」の証
最後に触れておきたいのが、医科や他職種との連携です。特に在宅医療を行う内科医との連携がうまくいけば、誤嚥性肺炎のリスク対策や薬剤調整など、医療的な安全性が飛躍的に高まります。
また、訪問看護師や管理栄養士との連携により、摂食嚥下や栄養状態の情報を共有できれば、歯科的なアプローチにも幅と説得力が生まれます。
このように、歯科が地域医療の“輪の中”に入っていくことが、真の意味での訪問診療の仕組み化を支える基盤となるのです。
訪問診療とは、「出向いて診る」だけの診療形態ではありません。
それは、地域と関わり、信頼と情報を育てていく営みです。
その先には、単なる“患者数の増加”ではない、“必要とされる歯科医院”としての存在意義の確立があります。
6.まとめ
「医院の未来を支えるもうひとつの診療室」
本稿では、訪問歯科診療をこれから始めようとする歯科医院の皆さまに向けて、その背景、意義、構築のステップ、そして現場での実際と地域連携の考え方までを、全5章にわたってご紹介してきました。
高齢化が進む中、歯科医院を取り巻く環境は大きく変化しています。
外来のみに依存する経営は、将来にわたって安定が保証されるものではありません。
しかし、こうした時代の変化は、決して“危機”ではありません。
むしろ、「今こそ地域で求められる歯科医院に進化するチャンス」ととらえるべきです。
訪問歯科診療は、単なる“新しい診療スタイル”ではなく、地域社会とともに歩む医療のかたちです。
その導入・定着には確かに段階的な準備と工夫が必要ですが、構造的な5ステップを一つひとつ丁寧に積み上げていけば、誰にでも取り組むことができます。
そして、その先にあるのは――
- 通院困難な患者と家族の「ありがとう」
- 地域のケアマネや施設スタッフからの「頼りにしています」
- そして、自院のスタッフたちが誇りをもって関わる「医療の実感」
それこそが、訪問歯科診療の最大の“報酬”なのかもしれません。
未来を見据え、今できる一歩を。
訪問歯科の仕組み化は、「医院の存続」ではなく、「医院の進化」を支える確かな礎となります。
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このレポートでは、 訪問歯科医院が成果を出せない3つの根本原因 を明らかにし、
「高齢化社会を迎えた今、通院が困難な患者さんを支えながら、医院の経営を安定させるにはどうすればいいのか?」
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本レポートでは、**ゼロから訪問歯科を立ち上げ、成功へ導くための“5つのステップ”**を徹底解説。
単なる往診ではなく、収益を安定化させ、地域に必要とされる医院へと進化する仕組みづくりの全貌がわかります。
もしあなたが、
「訪問歯科に興味はあるけど、どう始めていいかわからない」
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「地域で選ばれる医院に成長したい」
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このレポートでわかること
- 訪問歯科の必要性とメリット
- 訪問診療を成功させる5ステップ
- 地域とのつながりと信頼構築
- 訪問歯科の進化と持続可能な経営モデル